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王立音楽院

6年過ごしたスペインでの学生時代。私の通っていた音楽院は、建物を中でわけ、反対側の入り口は王立劇場になっていました。地下鉄のオペラという駅降りてすぐ。

先にマドリッドに行っていた父が、「お城のような学校だよ」と写真を送ってくれました。

「わぁ‥素敵‥」

写真を見た時の感激は、今でもよく覚えています。

ここで一番最初に始まった授業はソルフェージュでした。授業中にくわえタバコ、また、タバコを指に挟みながらピアノを弾く豪快な女の先生でした。

授業が終わるとクラス全員でバル(気軽にお酒も飲めるカフェみたいなところ)へ。スペイン語がほとんどわからない私も誘われるがまま参加していたなぁ‥

日本で鍛えられていたおかげか、聴音が比較的よくできた私。ある日先生が、
「今日は用が出来たから、ここからはアキコに代わってもらう」

と帰ってしまったことがありました。言葉の出来ない留学生に授業を任せる先生‥この大らかなお国柄にはカルチャーショックを受けました。

かたことのスペイン語で必死に先生の代わりをやった私。でも音楽は万国共通の言語を持っているようなもの。渡されたその日の課題をなんとかこなした事は、言葉がわからない辛さをひしひしと感じる、自信喪失の日々を送っていた私には勇気づけられた出来事でした。

まだスペインに着いたばかりのある夜、この王立劇場での演奏会に出かけました。背中にはライトアップされた王宮と庭園。ドレスアップした紳士淑女たち。夢のような美しい光景で、昼間とは全く別の顔を見せる王立劇場。

この建物の中で勉強していることを誇らしく思った夜でした。

趣きのある古い建物だった音楽院も、その後2年ほどしてからでしょうか。新しい建物に引っ越しました。ピアノも設備もピカピカ。

でも、タバコの焼け焦げのついた鍵盤のピアノ、壊れた鍵ばかりのトイレ‥

お城のようだった最初の学校がとても懐かしいです。